論文メモ:Rapp, "Literary culture under Justinian"
Rapp, C. (2005). Literary Culture under Justinian. In M. Maas (Ed.), __The Cambridge Companion to the Age of Justinian__ (Cambridge Companions to the Ancient World, pp. 376-398). Cambridge: Cambridge University Press.
ユスティニアヌス治世に対するルメルルの評価、「異教的」古典教育への攻撃ゆえの質の低下。この評価は6世紀の様々な著作家の軽視につながった。本章はユスティニアヌス治世の文芸を扱う。
ユスティニアヌス治世の書物作成の変化、修道院が生産拠点になる。豪華な写本の存在(やはり例外的だが)。著作の過程、仲間内での披露・批評を経ての公刊。個人所有の本も朗読というかたちで聴衆に共有される。544年春のローマ、トティラによる包囲中の朗読のエピソードの紹介。
古代・中世における識字率の問題。幅広い「識字」の基準、真の意味での文芸家はほんの一握り、社会・経済・政治的エリート層であり教養を共有。高等教育は金がかかる、Heather の言葉を借りれば「身分固定のシステム」。属州出身者にとって首都で後援者を見つけることが栄達のチャンス、執筆活動の一つの動機にもなる。6世紀の著作家の多くは属州の富裕な人々、法学含む学問を修めていたり、行政・軍事職経験者だったり、教会で雇用されていたりする。6世紀はビザンツ時代の中でも特に文芸が豊富に現存。
著作に見られる後援者やその家族の称賛、序文のみならずテクスト全体に渡る場合も。北アフリカ出身のコリップスの称賛演説2点、一つはユスティニアヌス治世のmagister Militum ヨハネス・トログリュタの称賛、548年カルタゴで公刊。さらにおよそ20年後、コンスタンティノープルでユスティニアヌスの甥ユスティヌス2世称賛。皇帝と財務官quaestor アナスタシウスへの感謝の表明。この種のパトロネジ関係を個別的に見ていく。コメス・マルケリヌス、ヨハネス・リュドス、プロコピオスなど。他方でパトロネジ関係の外側に位置する著作家もいた。
6世紀の文芸活動におけるユスティニアヌスの役割。同時代人に人気を得たのはアガティアスの詩、アガペトスやマララスなどパトロネジから恩恵を受けなかった著作家のもの。ユスティニアヌスが文芸活動を保護した証拠にはマルケリヌス年代記とリュドスの現存しないペルシア戦史のみ。彼は文芸保護に熱心ではなかった。にもかかわらず文芸が盛んになったのがユスティニアヌス治世の重要なパラドックスの一つかもしれない。