「最後の異教世代」

E. J. Watts, The Final Pagan Generation (The Transformation of the Classical Heritage 53), Oakland: University of California Press, 2015.

The Final Pagan Generation (Transformation of the Classical Heritage)

The Final Pagan Generation (Transformation of the Classical Heritage)

List of Illustrations
Acknowledgments
Introduction

1. Growing Up in the Cities of the Gods
2. Education in an Age of Imagination
3. The System
4. Moving Up in an Age of Uncertainty
5. The Apogee
6. The New Pannonian Order
7. Christian Youth Culture in the 360s and 370s
8. Bishops, Bureaucrats, and Aristocrats under Gratian, Valentinian II, and Theodosius
9. Old Age in a Young Man’s Empire
10. A Generation’s Legacy

Bibliography
Index

出版社のHPより転載しました。
〜〜〜〜〜

アメリカの古代末期研究者E. J. Wattsの三冊目となる単著。Introductionを読んだのでまとめてみました。

 392年のセラペイオン破壊事件は同時代人に、410年のローマ劫掠に次ぐ衝撃を与えた。この事件は、四世紀を通じて増大してきた、伝統的宗教に対する脅威の到達点であった。この事件の重要性を皆が等しく認識していたが、それに対する反応は世代ごとに異なっていた。
 研究史上、これまでは十分に認識されてこなかったが、380年代以降における暴力的行為の担い手、それを制御しようとする帝国官僚、そして皇帝たちは皆青年ないし壮年の人々であった。彼らはコンスタンティヌスの死後に生まれた世代であり、310・20年代に生まれたエリートとは極めて対照的な人々である。彼らはキリスト教が明らかに優勢になった世界に生まれたのであった。四世紀以降のローマ世界の歴史は、周りの変化に対応しつつ生きていた若い世代に注目して語られる傾向にある。例えばアンブロシウスやナジアンゾスのグレゴリオスら司教、またユリアヌスやエウナピオスなどの抵抗勢力である。しかし本書は彼らの親の世代、すなわち「最後の異教世代」に注目する。しかしこの言葉は、異教がこの世代で断続したということを意味しないし、その世代が非キリスト教徒に限定されるわけでもない。「最後の異教世代」とは、過去一千年間における公の宗教秩序がこれからも続いていくと信じられていた世界に生まれた、ローマ人エリートの最後の集団のことである。彼らは、キリスト教に支配されたローマ世界など想像もできない世界に生まれたのであった。本書の目的は、これまで見過ごされてきた最後の異教世代の視点を再構成することにある。特に本書の議論は、四人のローマ人エリートとその周辺をめぐるものとなる。すなわち、リバニオス、テミスティオス、アウソニウス、プラエテクスタトゥスである。
 本書は九つの章と短い結論からなる。第一章は、「最後の異教世代」が生まれたローマ世界、四世紀初めの帝国の姿を描き出し、次いで310年代の子供たちがどのように成長したかを論じる。第二章は、彼らの少年期における出来事について論じる。彼らは比較的閉じた世界のなかで教育を受け成長したが、その外側では、コンスタンティヌスによるキリスト教の振興策という大きな変化が生じていた。第三章では、この世代の人々が公に姿を現し始めたころの時期を扱う。それは彼らにとって「新たな黄金時代」であり、帝国のエリートにとっては幸運な時期であった。第四章は350年から361年、彼らの子供たちが社会に出始めた時期を扱う。身内の不幸や帝国政治の不安などもあったが、彼ら四名は変わらず帝国のなかでそれぞれの役割を果たし、そこから利益を得ていた。第五章は、彼ら四人がユリアヌスとヨウィアヌスの治世をどのように過ごしていたかを問う。第六章はウァレンティニアヌスとウァレンス兄弟の治世である。この時期、伝統宗教には安定が約束されていたが、皇帝らはユリアヌス帝のもと栄達した人材を入れ替え、そのことが四人それぞれに影響を与えた。第七章は、360年代から370年代にかけて現れつつあった新たなエリートたちに注目する。この頃までに、伝統的な帝国エリートとしての道とは異なる、新たなキリスト教エリートが登場しつつあった。第八章は375年から384年に注目し、「最後の異教世代」が次の世代に帝国の舵取りを譲る過程について論ずる。第九章は384年から394年、「最後の異教世代」がその生涯を終える時期を扱う。結論部ではセラペイオン破壊事件に立ち返り、「最後の異教世代」の遺産がその次世代とはどう異なっていたのかを考察する。