3世紀中葉のキリスト教迫害
さる理由で最近、Bill Leadbetterというオーストラリアの研究者の論文を集めて読んでいます。国内で手に入らない論文がいくつかあるのがやはり難点ですが。今日はこの論文を読みました。
Bill Leadbetter, "Imperial Policy and the Christians in the Late Third Century", in Dillon, M.(ed.), Religion in the Ancient World : New Themes and Approaches, Amsterdam, 1996, 245-55.
皇帝デキウスからアウレリアヌスまでのローマ帝国における、皇帝が実施した対キリスト教徒政策の動機を論じています。デキウスは伝統宗教復興を目的として、ローマ帝国全体に犠牲式の挙行を命じたが、結果としてキリスト教徒は迫害されることになった。次いでウァレリアヌスもデキウスと同様の路線をとったが、治世の後半にはキリスト教徒を帝国の敵とみなした。ガリエヌスの時代には迫害が停止されるが、それはキリスト教徒に「特に」好意的だったというよりも、キリスト教徒を含む帝国全体に対し寛容だっただけ。アウレリアヌスは再びキリスト教徒を敵とみなし、それがディオクレティアヌス時代へと引き継がれていくのだ、という内容。
初期キリスト教史、ローマ帝国史におけるキリスト教徒迫害の歴史は近年活発な分野の一つですが、この論文は日本の研究傾向から見るなら、どちらかといえば伝統的立場にあるようです(もちろん、論文の発表がすでに15年前という事情はあるが)。というのは、デキウス迫害に関してはClarke説(G.W.Clarke, The Letters of St Cyprian I, New York, 1981)に依拠して、その反キリスト教的性格を否定するものの、ウァレリアヌス迫害以降はローマ帝国側に能動性を認め、その政策に反キリスト教的性格を読みとっているからです。
学問的な話はここまでになるのですが、この論文を読んでいてちょっと驚いたことが。論文の三段落目で2世紀のキリスト教に触れた際、「ダグラス・アダムズの言葉を借りるなら、『ほとんど無害』(in the words of Douglas Adams, "mostly harmless")」という表現が出てきました。「ダグラス・アダムズって誰だ?」と思って調べたら、何とSF作家(リンク先はwikipedia)。『ほとんど無害』というのは本のタイトルみたいですね。
また四段落目では3世紀前半の皇帝たちに触れて、「帝国は哲学者、剣闘士、弟殺しの兵士、ふしだらで同性愛者で10代の宗教的狂信者、トラキア人士官とアラブ人の首長によって様々に支配されていた(the Empire had been governed by variously a philosopher, a gladiator, a fractrical legionary, a promiscuously homosexual teenage religious fanatic, a Thracian officer and an Arab sheikh)」と述べられていますが、論文でこういう表現に出会うとは思ってもみませんでした。口頭発表をもとにした論文らしいのですが、ちょっと戸惑ってしまいました。
3世紀中葉の対キリスト教徒政策については、日本では次の文献が詳しいです。
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ローマ帝政中期の国家と教会―キリスト教迫害史研究193ー311年
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