文献メモ 古典の継承者たち第二章第一節〜第四節

L. D.レイノルズ・N. G.ウィルソン(著)西村賀子・吉武純夫(訳)『古典の継承者たち:ギリシアラテン語テクストの伝承にみる文化史』 (国文社、1996)、第二章「東のギリシア語圏」第1節〜第4節(75〜95頁)

古典の継承者たち―ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史

古典の継承者たち―ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史

第一節「帝政ローマの学問と文学」
第二節「キリスト教会と古典研究」
第三節「ビザンツ時代初期」
第四節「オリエントにおけるギリシア語テクスト」

読書会のレジュメを作成するためにメモ。
 帝政期ローマのギリシア語圏では、古典研究の関心が文学から修辞学へと移行し、デモステネスを初めとする古典期アッティカ風文体の研究が盛んになった。この擬古主義はビザンツ時代末期まで、古典研究と古典テクストの継承に大きな影響を及ぼすことになる。古典期のテクストが読まれ続け、写本が再生産され続けた反面、テクストを本来の言葉遣いからアッティカ方言に書き換える、ということも生じた。
 特に三世紀以降は、キリスト教が古典研究から影響を受け、また影響を及ぼした。教父たちは概して古典の利用に寛容ないし積極的で、古典の利用を通じてキリスト教思想を豊かなものにしていった。時折、キリスト教会が異教的テクストを検閲し、焚書すらしたと主張されることもあるが、そのような主張にはあまり説得力がない。教会が注意したのは、異教的著作よりもむしろ異端的著作であった。
 帝政後期ローマでは、行政制度の発達に伴い、役人に修辞学や法学、ラテン語の習得が求められるようになった。いくつかの高等教育機関が開設され、そこでもやはり、古典期アッティカの作家たちが読み継がれていた。しかし6世紀後半から、内外の政治的・宗教的諸問題が帝国を疲弊させ、いわゆるビザンツの「暗黒時代」がおよそ300年間続く。この時期には、おそらく古典研究は殆ど行なわれなかった。
 またこの時代、ギリシア語テクストはその他の東方の言語にも翻訳されていった。古代シリア語、アラビア語アルメニア語である。古代シリア語に翻訳されたのは、聖書を含むキリスト教関係の著作が多く、アラビア語への翻訳活動には、科学と哲学に関する高い関心が見られる。9世紀には、優れた翻訳家であったフナイン・イブン・イスハークが現われた。アルメニア語への翻訳は、キリスト教会のために始まり、その他にもいくつかの翻訳が行なわれたことが知られている。