文献メモ

Harries, J.(2012)“Julian the Lawgiver,” in: N. J. Baker-Brian and S. Tougher(eds.) Emperor and Author: the writings of Julian the Apostate, Swansea, 2012, pp. 121-136.

Emperor and Author: The Writings of Julian the Apostate

Emperor and Author: The Writings of Julian the Apostate

 
 法律制定者としての「背教者」ユリアヌス像を、彼の書簡及び『テオドシウス法典』ないし『ユスティニアヌス法典』に採録された、彼の名前で発布された法令の分析によって考察する。ユリアヌス自身の政策意図は、法典に採録された法令史料よりも、むしろ書簡において強く表れている。後代の法典編纂者らが、彼ら自身の編纂意図に基づいてテクストを改変したためである。加えてそのために、法典におけるユリアヌスの法令は、他の皇帝たちと同様に保守的な傾向を示している。ユリアヌスは反キリスト教的政策を実施し、それに関連する法令が法典に採録されているが、編纂者らはテクストから、彼らにとって問題だと思われたテクストを削除し採録した。そのように改変された法令であっても、時に反キリスト教的、さらには反コンスタンティヌス的なユリアヌスの政策方針を示唆する。ユリアヌスの死後、おそらく彼ほどに、自分自身の個性を法令やその支配体制に強烈に反映させた皇帝はいなかった。


著者J. Harriesには、後期ローマ帝国の法制度とその運用を扱った(1999) Law and Empire in Late Antiquity. Cambridge: Cambridge University Pressがある。

Law and Empire in Late Antiquity

Law and Empire in Late Antiquity

ユリアヌスの法令に関しては、宗教史・思想史的観点からの分析ではあるが、中西恭子(2012)「ユリアヌスの死生観における「死者のいる空間」と殉教者崇敬」『死生学研究』 17(1), 230-255(横90-115)頁が、いわゆる「葬儀と墓域に関する勅令」を扱っている。