訳語の問題

一仕事区切りがついたので、途中まで読んでいて止めていたハドリアヌス帝についての訳書を読了。

ハドリアヌス帝―文人皇帝の生涯とその時代 (文庫クセジュ)

ハドリアヌス帝―文人皇帝の生涯とその時代 (文庫クセジュ)


日本では塩野七生さんによる非常に好意的な描写や多田智満子さんによるマルグリット=ユルスナール著『ハドリアヌス帝の回想』の翻訳などもあり、さらに最近では漫画『テルマエ・ロマエ』にも登場するなど、比較的有名な皇帝の一人だと思います。この訳書は1998年の原著からの翻訳で、ハドリアヌス帝について、というよりもハドリアヌス帝が生きていた1〜2世紀のローマ帝国についての概説書です。こういう概説書が日本語で読めるというのは本当に有難いと思います。


この訳書が収められているシリーズ「白水社文庫クセジュ」には他にも古代史関係の良書がたくさんありまして、出版されたばかりの『ディオクレティアヌスと四帝統治』も早速読んでいるところです。自分の研究範囲ということもあって、自然と読む力にも熱が入るような気がします。


ディオクレティアヌスと四帝統治 (文庫クセジュ)

ディオクレティアヌスと四帝統治 (文庫クセジュ)


しかし、日本語訳という問題に関して、ずっと気になっていた点がひとつ。それは官職名・史料名の翻訳という問題で、たとえば原語ラテン語で"agentes in rebus"という官職名について、目にした限りでも「警察官吏」「帝国の使者官」「特任調査官」と、さまざまな翻訳があって統一されていない状態です。研究者としては、その翻訳の仕方自体が研究者の立場・主張をあらわすものでしょうから、それが"agentes in rebus"を指すものだ、という共通理解があれば問題ないかと思います。しかし、研究者ではない学生、一般の方などにとってはこれは由々しき問題ではないでしょうか。これは卒論の時に翻訳をどうすればいいか悩んだ自分の経験も踏まえてのことです。ある程度統一がなされてもいいと思うんですが…他の学問分野では、学術用語の翻訳とかはどうなっているんですかね?学術用語集が出版されている分野もありますが、寡聞にしてローマ史に関して詳細な用語集の存在を知りません(キリスト教史・キリスト教学については確かあったはず、カトリック大辞典というものもあるし)。探してみようかな。