コンスタンティウス2世の性格

今日午前中に読んだ論文:Nutt,D. C."Silvanus and the emperor Constantius II" Antichthon 1973 VII pp.80-89.


前回とりあげたシルヴァヌスの反乱について、その原因を検討した論文です。かなり古い論文で、すでにその部分部分に反論が加えられていたりもするのですが、やはり読むべきものは読まないと。


まずシルヴァヌスの反乱について述べている、比較的詳しい史料を比べてどちらを信頼すべきかが検討されます。とりあげられるのはユリアヌスが書いた『コンスタンティウス2世を称える演説』と、アンミアヌス著『歴史』です。前者はシルヴァヌスの人物像を悪人としてとらえ、後者は好意的に捉えています。Nuttは前者にはプロパガンダ目的があることを指摘します。また、皇帝コンスタンティウス2世がシルヴァヌスに任せた地位の重さからも、皇帝はシルヴァヌスを信頼していたことが分かるとして、前者の信頼性を低く見積もります。そのうえでアンミアヌス『歴史』を基本史料として検討していくわけです。


著者は結論として、反乱が起こってしまった直接の原因はアポデミウスなる人物と、その背後の宮廷人たちによる陰謀だったとします。そしてコンスタンティウス2世はそれについて全く知らないままで、シルヴァヌスも「コンスタンティウス2世が知らなかったとは」知らないまま、行き違いのために反乱することになったのだ、と結論しています。


この論文で不満を持った点は、コンスタンティウス2世の人物像が都合よく解釈されて用いられているところです。コンスタンティウス2世はシルヴァヌスを「信頼していたからこそ」彼に重い地位を任せたのだ、と前半では論じられます。(p.83,'It is not unreasonable to suppose that at the beginning of 355 Silvanus was held in very high regard by Constantius.';'…Silvanus had Constantius' favor')

ところが後半では、シルヴァヌスはコンスタンティウス2世が「気まぐれな」性格であることを知っていた、と述べられてもいます。
(p.85,'He(Silvanus) knew of Constantius' fickle nature…';p.86 '…his suspicion that Constantius' fickle nature…')
またNuttはアンミアヌスが述べる、コンスタンティウス2世の猜疑心強い性格をもある程度は認めているようです。


コンスタンティウス2世は「人を信頼するけど」「気まぐれで」「疑い深い」というのは、個人的には矛盾しているように感じます。まあ、人間とは矛盾のかたまりである、みたいな言い方もありますから仕方ないのかもしれませんが。しかしこれでは、コンスタンティウス2世と他者との関係を論じる際、あまりにも都合の良い解釈を生みだす素地になってしまうのではないでしょうか?この点をいかに克服するかが、これから歴史を研究していくうえで一つの課題となるような気がします。