「一冊でわかる」シリーズ

岩波書店から出ている、「一冊でわかる」シリーズ。ローマ史関係でも何冊か出ていますが、今年初めに出ていたこの本を最近になってようやく読みました。

ローマ帝国 (〈1冊でわかる〉シリーズ)

ローマ帝国 (〈1冊でわかる〉シリーズ)


以前このブログでもとりあげたクリストファー=ケリー氏による著作で、原著は2006年のものです。感想を一言で言うなら、とても面白かった、です。これもまた一般向けの教養書なのですが、内容がかなり挑発的で驚きました。章題を見ても、「共犯」とか「キリスト教徒をライオンに」とか。この点については解説で南川高志先生が書かれているように、我々の価値観で古代を評価するのではなく、あくまで彼らローマ人の視点でローマ帝国をとらえようとする著者の問題関心が貫徹されているためでしょう。特に第7章では現代におけるローマ帝国イメージの利用が述べられており、僕にとっても考えさせられました。本書によれば、映画「グラディエーター」に代表されるようなローマ帝国のイメージは、我々が見たいと望んでいるイメージにすぎません。だとすれば、自分が研究対象として見ているローマ帝国や皇帝イメージも、実は自分が見たいと思っているイメージにすぎないのではないか、と。


この歴史研究における主観と客観の問題はもうとっくに認識済みの問題で、しかも喧々諤々たる論争を巻き起こした、通過済みの問題でもあります。常にそういった問題意識を持って、独りよがりにならず研究を進めなければいけない。そういう戒めにもなる書籍でした。