アンミアヌス関連論文

今日の仙台は強風が吹き荒れ、外出するのも一苦労でした。雪がすっかり溶けきっていたのが幸いでしたが…
僕はというと、この一週間ほどはラテン語史料と格闘していたため、ほとんど論文を読むこともできませんでした。今日は一区切りをつけて他の作業をしたので、論文を読む時間ができました。それで、短めの論文を二本ほど読みました。

H. Sivan, "Ammianus at Rome : Exile and Redemption?" Historia 46/1, 1997, 116-21.
    (「ローマ市のアンミアヌス:追放と帰還?」)

4世紀の歴史家アンミアヌスについて、彼が人生の後半を生きたローマ市での活動を再復元する試みです。383年もしくは384年に起こったある公金横領事件を検討し、その関係者に含まれた帝国の官僚「アンミアヌス」なる人物が歴史家アンミアヌスと同一人物である、と主張するのがこの論文の目的です。その根拠は、歴史家アンミアヌスその年にローマ市を追放されたと考えられていること、同名の官僚アンミアヌスも追放されていること、そして何より同名であることです。


この推測が正しければ、あまり知られていないアンミアヌスの後半生を知る貴重な手掛かりとなるのですが…現在では、そもそも歴史家アンミアヌスがローマ市を追放されたかどうかが怪しいとする主張もあり、また「アンミアヌス」という名前の人物は他にも知られています。同名というだけでは、ちょっと根拠が弱いとも思います。この主張を支持する研究者もあまりいないようです。



R.M.Frakes, "Ammianus Marcellinus and Zonaras on a Late Roman Assassination Plot" Historia 46/1, 1997, 121-29.
     (「アンミアヌス・マルケリヌスとゾナラス、後期ローマにおける暗殺の陰謀」)  

前掲論文と同じ雑誌の同じ号に掲載された論文です。350年代前半に起こった副帝ガッルス暗殺未遂事件に関して、従来同一の事件を描いているとされてきた、アンミアヌスとゾナラスの記述を再検討します。そして、二つの記述には何ら関連性が無いこと、そしてゾナラスに記される、反乱者マグネンティウスによる暗殺の陰謀についてもフィクションであると主張するのがこの論文の目的です(ゾナラスについてはこのブログでも以前少し紹介しました:リンク)。


具体的にはアンミアヌス著『歴史』第十四巻七章四節とゾナラス著『年代記』八巻を検討するのですが、両箇所についての先行研究が手際よくまとめられ、のみならず他の著作家が遺した書物との関係、他のテーマに関する先行研究まとめなどがあって、非常に有益な論文でした。アンミアヌスとゾナラスの当該箇所の注釈として参照しなければいけない論文だと思います。