ゲイジャー『古代世界の呪詛板と呪縛呪文』書評2点のメモ

ジョン・G・ゲイジャー、志内一興(訳)『古代世界の呪詛板と呪縛呪文』京都大学学術出版会, 2015年 の書評2点を読んでメモした。

 

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1)大谷哲「書評 ジョン・G・ゲイジャー編(志内一興訳)『古代世界の呪詛板と呪縛呪文』」『史苑』76 (2016), 201–7頁(リポジトリよりダウンロード可:http://doi.org/10.14992/00012092

評者による指摘3点。1、本書の採用する分類法にはいくつか再考の余地もある。2、選ばれた史料がギリシア語に偏っている。史料の全体的傾向に即しているのならばその説明が必要だった。3、アラム語コプト語の提示が望ましかった。加えて評者は本書の原書公刊以降進展した、古代ギリシア・ローマにおける呪詛・呪文研究動向を日本語論文に限ってではあるが概観する。

 

2)前野弘志「書評 ジョン・G・ゲイジャー編/志内一興訳『古代世界の呪詛板と呪縛呪文』」『史潮』新83、2018, 78–84頁。

評者によるコメント3点。1、著者ゲイジャーによるセト呪詛板テキスト(ST16A)の翻訳について。著者はセト呪詛板の挿入定型句と本文テキストを区別することなく判読しているため、本文テキストの出発点を誤解している。評者は呪詛板の正しい判読を提示する。2、同テキストにおける英訳the spellの和訳について。3、同じく英訳restrainの和訳について。なお、評者には同テキストについてすでに論文を発表している(前野弘志「セト呪詛板の図像分析」『西洋史学報』442018132頁)。

 

ところで、前野書評が取り上げる呪詛板はその一部がローマ国立博物館(Museo nationale romano Terme di Diocleziano)に展示されている。2018年2月に現地を訪問した際に実物を見ることができた。非常に保存状態が悪いこと、この状態からテキストを判読できることにとても驚いた。

 

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