プロパガンダ・黄金冠
下記の書籍を読みました、といっても、長いので第六章だけ。貸してくれた友人に感謝です。
Imperial Ideology and Provincial Loyalty in the Roman Empire (Classics and Contemporary Thought, 6)
- 作者: Clifford Ando
- 出版社/メーカー: Univ of California Pr
- 発売日: 2000/10/02
- メディア: ハードカバー
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chapter6, The Creation of Consensus
「コンセンサスの形成」
ローマ皇帝が正統性をアピールするために用いた手段がさまざまに列挙され、帝政初期から末期まで幅広く事例が紹介されています。僕の研究対象である4世紀前半については、「背教者」ユリアヌスの反乱がとり上げられ論じられています。ユリアヌスは反乱を起こして皇帝となるのですが、自身の正統性を帝国中に訴えるため情報戦を展開しました。彼が帝国各地の都市に宛てた書簡のうち、ギリシアのアテネに宛てられた書簡が現存しており、貴重な史料となっています。古代におけるプロパガンダの一例として、非常に興味深い事例です。
またローマ帝国時代の習慣である「黄金の冠」についても論じられていました。これは皇帝が即位した際、各都市から皇帝にお祝いとして捧げられたもので、黄金製の王冠だったり、勝利の女神像だったり、金貨だったりしたようです。言ってみれば「ご祝儀」みたいなものですね。当初は各都市から自発的に贈られたものでしたが、のちの時代には制度化され、皇帝から強制されるものとなったようです。先のユリアヌスはこの制度を廃止したということで賞賛されたりもしますが(しかし彼の死後復活)、実際にはユリアヌス自身が「黄金の冠」を受け取ったとの記録もあります。
ご祝儀の強制とは、強制されるほうにとってみればたまったものではないですが…どうやら、このご祝儀にはかなりの見返りが期待できたらしく、「黄金の冠」を捧げることで免税を獲得した都市もあったとのこと。一時的な支出で恒久的な恩恵を得ることができるのなら、実は悪くない制度だったのかも。むしろ、廃止されて困る都市もあったかもしれないですね。