デーヴィス『歴史叙述としての映画』

ナタリー・ゼーモン・デーヴィス(著)中條献(訳)『歴史叙述としての映画: 描かれた奴隷たち』(岩波書店, 2007)
(原著:Natalie Zemon Davis, Slaves on Screen : Film and Historical Vision (Harvard University Press, 2000).)

歴史叙述としての映画―描かれた奴隷たち

歴史叙述としての映画―描かれた奴隷たち

目次
第1章 歴史を語る方法としての映画
第2章 抵抗と生き残り―『スパルタカス
第3章 儀式と反乱―『ケマダの戦い』と『天国の晩餐』
第4章 トラウマの証言者たち―『アミスタッド』と『ビラヴド』
第5章 真実を語る
訳者あとがき

〜〜〜〜〜
 歴史上の出来事を題材にした、あるいはそれにヒントを得て製作された映画は、歴史を伝える媒体として重要なものだと思うけれども、歴史研究者にとってそれを扱うことは非常に難しいように思う(特に僕のような駆け出しにとってはなおさら)。それは、映画のなかで描かれる時代に対する深い理解は当然のこと、映画が製作された背景として、監督を初めとする映画製作に携わった人々の意図や当時の社会状況、そしてその映画を見た観客の反応などを調べる必要があるから。例えば古代史研究者が『グラディエーター』を論じるならば、古代史だけではなく、ハリウッド映画に関する知識が必要だろう。そんな理由から、少なくとも僕は、端的に言うと、不勉強ゆえに「映画」というものをどう扱ったらよいのかよく分からないのです。
 こういうわけで、本書は歴史研究者が歴史映画を読み解く試みの一環として、とても参考になりました。著者のデーヴィスは近世フランス社会史を専門としているので、本書が取り上げる映画5本はいずれも著者の専門から外れる時代を扱っているわけである。にもかかわらず、本書では、映画に描かれる社会や時代背景に関する研究をしっかりとフォローしているようなので、当たり前のことではあるが高く評価すべきポイントだと思う。
 なお本書については、『西洋史学』231号(2008年)に書評が掲載されているのでそちらも参照のこと。