コンスタンティウス2世と果物
あわただしく新年度を迎えたので、新年度という感じが全くしないのですが、久々に研究室の雑誌から論文をコピーして読みました。短いものなんですが。
D. Rohrbacher, "Why didn't Constantius II eat fruit?", The Classical Quarterly, 2005, 323-26.
「なぜコンスタンティウス2世は果物を食べなかったのか?」
アンミアヌス・マルケリヌスによれば、コンスタンティウス2世は生前全く果物を口にしなかったとのこと(アンミアヌス『歴史』21巻16章7節)。先行研究では余り問題視されず、皇帝ネロのような暴飲暴食をしなかった印であるとか、アレルギーだったのだろうと説明されていました。しかしRohrbacher(何と発音するのだろう)は、果物は暴飲暴食の印ではなく、また古代において知られていた果物アレルギーはほとんどなく、コンスタンティウス2世がアレルギー体質だった証拠もないと論じます。
では、論文タイトルになっている問題に対して、いかなる答えが出されるのでしょうか。Rohrbacherはコンスタンティウス2世の信仰、すなわちアリウス派キリスト教に着目します。アリウス派キリスト教はマニ教に影響を受けており、そのマニ教には農作業を禁止する戒律がありました。
「こうして第二戒は、たとえ一植物、一小動物であっても、殺したり傷つけたりしてはならないことを修道士に課すものとなる。
その結果、農作業が禁止される。『刈り取る人びとは、彼ら自身が、まぐさ、いんげん豆、大麦、小麦、野菜のなかに移し換 えられ、やがて切られて刈り取られることになる』とは、『アルケラオス行伝』のなかでのチュルボーンの言である。」
(ミシェル・タルデュー著『マニ教』123頁)
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こうしてマニ教では、当然果物の摂取も禁じられることとなります。この教えがアリウス派キリスト教に伝わって、それを知っていたアンミアヌスが、コンスタンティウス2世はアリウス派キリスト教徒であったことを暗に示そうとして、わざわざ「コンスタンティウス2世は果物を食べなかった」と記したのではないか、というのがRohrbacherの論です。
…単に果物が嫌いだったから、というオチがつきそうな話だと思ってしまったり。